家族信託は想いを実現するツール

家族信託における受託者は、信託の目的を含む信託契約に従い、財産の管理又は処分及び『その他の信託の目的の達成の為に必要な行為』をすべき義務を負います。(信託法第2条5号)

先祖代々伝承されてきた家訓や遺訓を含む考え方も信託の目的に掲げることにより、子孫に、その伝承された家訓や遺訓も承継していくことも可能になります。

と言いますのも、信託契約は、委託者と受託者との契約ですので、受託者である娘や息子は、信託の目的に掲げられたこと(家訓や遺訓含む)に反すると法的責任を負うことになるからです。

家族信託は、まさに、次世代に対する教育的機能も持っているのです。

想いを実現するツールとしての家族信託に、限りない可能性を感じております。

新受託者の定めの有無の検討

家族信託を設定する時には、受託者が身近な家族いわゆる自然人になることがほとんどだと思いますので、必ず、健康・生命リスクを伴うことに留意しなければなりません。

受託者が任務を遂行出来なくなったときに備え、予めその任務を引き継ぐ新たな受託者を設けることも大事になってきます。

もし、そういう新受託者に関する規定がない場合、委託者兼受益者の合意で新受託者を定めることもできますし、もし、委託者に意思能力が無くなっていた場合は、利害関係人の申し立てにより、新受託者を選任することができるという規定も信託法に用意されております。

適任の受託者が見当たらない場合で、経済的事情が許される方は、商事信託いわゆる信託銀行や信託会社といった信託のプロを受託者にすることも選択肢の一つにするのも良いかもしれません。

 

富裕層の為だけでない家族信託

一般に、高齢者Aの不動産を代わりに、Bが運用、管理、処分していくのに、3つの方法が考えられます。

一つ目は①委任契約、2つ目は②贈与契約、3つ目は③信託契約で、AからBに権限を移行させることが可能です。

①の問題点としては、Aは委任契約を解除できるので、Bの地位は不安定であることが挙げられます。

②の問題点は、別途贈与税を課せられる場合の納税資金、不動産取得税の納税資金を考慮する必要があることが挙げられます。

③は、上記2つの制度に問題点をクリアにする制度ではあります。

但し、だからと言って、家族信託・民事信託ありきで手続きを進めることは致しません。

それぞれのご家族によっては、民事信託より生前贈与や商事信託がマッチすることもあろうかと思います。

ただ、選択肢の一つとして、家族信託があってほしいと思います。

何の検討もないまま、家族信託は、富裕層だけの為の制度だということで、選択肢から除外されることの無いようにして頂きたいと切に願います。

特に勉強不足の専門士業がそういうことをされると、お客様が本当に可哀そうだと思います。

 

 

 

実家の始末に困らないように。

『実家の始末』というタイトルで、2017年11月にNHKの情報番組『あさイチ』で家族信託が取り上げられて以降、家族信託の認知度も格段に上がり、一般的なものになっているのでしょうか?

実際、法律専門職への浸透は数年前に比べてかなり皆様興味を持たれている分野となっております。

我々が初めて、民事信託に取組もうとして、提案した案件は5年以上前ですが、分からないことはやめようという税理士も多く、実現に至らせることが非常に困難でした。

今は、新聞やTV番組でも取り上げられていることも分かるように、世の中に必要な制度として認知されてきたのだと思います。

 

しかしながら、まだまだ、一般の方の認知度はかなり低いものと思われます。

実家暮らしのご両親が認知症になって、その不動産を処分しなければならなくなる時に困らないようにする対策です。

ご家族全員にとって良い方向になり得る信託組成を心かけております。

なので、一部の推定相続人だけがメリットを受ける信託組成には慎重に取り組まざるを得ないのです。

その前段階で、もっともっと認知度を高めるために、情報提供、広報が必要です。微力ながら、家族信託普及の為の活動をしていきたいと考えております。

 

 

信託に伴う税制上のメリットについて

信託をしても、自益信託で要件を満たせば、特別控除の特例や税額軽減の制度を使うことができます。信託後の信託財産である実家などの不動産は、税法上、受益者が有しているとみなされているからです。

不動産信託で活用したい制度は、下記の通りです。

①居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例

②相続時における配偶者の税額の軽減

③相続した事業の用や居住の用の宅地等の税額特例(小規模宅地等の特例)

④居住用不動産の配偶者控除

受益者が相続人であれば軽減できる登録免許税

自益信託で、信託設定時から終了時まで受益者の変更がなく、信託終了したときに所有権を取得する人(帰属権利者)が委託者に相続人のときは、相続の登録免許税が適用になることから、登録免許税は4/1000で、不動産取得税は非課税になります。

 

受益者が不動産を相続することにより、軽減税率になりますが、相続人が委託者の地位を引き継いだ受益者であれば、次の受益者の登録免許税でも軽減税率に適用がございます。

「信託契約終了に伴い受益者が受ける所有権の移転登記に係る登録免許税法第7条第2項の適用関係について」平成29年6月22日照会回答

登録免許税法第7条第2項には、同条第1項第2号の規定における「信託の効力が生じたときから引き続き委託者である者に限る」のように、信託の効力が生じた時からその信託の信託財産を受益者に移すまでの間の受益者を限定する規定は設けられていないことからすれば、同条第2項の規定は、信託財産の移転を受ける受益者が「信託の効力が生じた時における委託者の相続人であることを要件としているのであって、信託の効力が生じた時から引き続き委託者の相続人が信託財産の元本の受益者であることまでを要件としているものではないと解するのが相当です。

不動産賃貸業者さんの会社報に家族信託に関する記事を書かせて頂きました!

日頃からお付き合いのございます京都で8店舗を持つ不動産賃貸業者の株式会社アルティム様の会社報アルティム通信の記念すべき第1号に、家族信託に関する記事を書かせて頂きました。

 

折角、こういう機会を頂きましたので、沢山の不動産を持たれる地主さん家主さんにも、家族信託の制度を知って頂ければ嬉しいです。一考に値する制度であると信じております。

 

記事内容

認知症対策に「家族信託」

ここ数年で、認知症対策としてニーズが高まっております「家族信託」のこと、ご存知でしょうか?家族信託とは、簡単に言うと、財産を信頼できる家族に託して自分の代わりに管理してもらう制度のことです。認知症で判断能力がなくなると、金融機関の窓口で取引が出来なくなり、自宅や賃貸アパートなどの不動産の売却が出来なくなります。その際、成年後見人を付ければ出来るのですが、家族が後見人になれるとは限りませんし、生前贈与などの相続税対策は認められません。その為、判断能力があるうちに家族信託の契約をしておきたいという方が増えているのです。

この手続きを選択した場合にも、もちろん費用は掛かりますが、自宅を売って老人ホームの費用を賄いたい人や積極的な相続税対策をしたい方には、一考の価値がある制度だと思います。ご興味持たれた方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談下さいませ。

 

信託移転に伴う損害保険の名義変更

不動産の火災保険や地震保険などは、建物所有者が保険契約をしています。

不動産信託における保険手続きは必ず行いましょう。

信託による名義変更であり、実質的所有権移転ではないこと。

保険金請求権は当初の所有者である受益者にあること。

などを説明して、手続きをお進め頂ければと思います。

信託財産の固定資産税納税義務者

信託契約を締結し、不動産登記をすることにより不動産は受託者名義になることから、固定資産税台帳には受託者が記載され、固定資産税の納税通知書は、受託者宛に届くようになります。

 

もし、同一市区町村に不動産を所有していると、固有財産としての固定資産税と信託財産の固定資産税が一緒に請求されてきます。

 

それぞれの税額の明細が書かれていない場合は、受託者自身において計算し、それぞれ、固有財産と信託財産からの支払いが必要となります。

 

受託者が個人でも法人税が課せられてしまう信託

受益者等がいない場合とかは、信託期間の全部または一部において受益者等が存在しない場合です。

 

受益者が存在する信託では、原則として受益者が信託財産を有するものとして受益者に課税されますが、受益者がいない場合、受託者が個人でも法人でも会社とみなして法人税の課税がされてしまいます。

 

なので、信託のどのような場面であっても受益者は必ず存在するように設計する必要がございます。

 

例えば、ペットを大事にする高齢者がペットの為に財産を残したいという意向があり、ペットを受益者とするような信託を設計すると、受益者がいない信託に該当してしまい受託者に課税されてしまうので、注意を要します。

信託の終了に伴い、受託者兼残余財産帰属権利者が受ける所有権移転登記に係る登録免許税法第7条第2項の適用関係について②

昨日の続きです。

登録免許税法第7条第2項は、

要件① 信託の信託財産を受託者から受益者に移す場合 であって

要件② 当該信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である場合において、

要件③ 当該受益者が当該信託の効力が生じたときにおける委託者の相続人であるとき

 

と規定していることから、その適用にあたっては、各要件を満たす必要があると考えられます。

委託者の地位については、帰属権利者に指定されている実子に、委託者の権利については、相続により承継されることなく消滅し、受益者の地位及び権利は、相続により承継されることなく消滅した上で、信託財産について、残余財産帰属権利者としている唯一の法定相続人である実子が取得するという内容の信託契約書の内容であった場合、委託者の死亡により、本件信託は終了し、帰属権利者として信託財産を取得するので、要件①を満たさないと思われるが、登録免許税法には、「受益者」の定義がないので、権利帰属者が受益者にあたるか否かについては、信託法の定義にて判断することになるはずです。

信託法では、「受益者」とは、受益権を有する者をいい、また、「受益権」とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対して負う債務であって信託財産に属する財産の引き渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権及びこれを確保するために信託法に基づいて受託者その他の者に対し、一定の行為を求めることができる権利をいう旨規定されています。

そして、また信託法では信託が終了した場合においても、その清算が結了するまで信託はなお存続するものと擬制され、残余財産帰属権利者は、当該清算中受益者とみなされる旨規定されています。

すなわち、残余財産帰属権利者である乙は、本件信託の清算中、受益者とみなされますので、乙は登録免許税法の受益者に該当することとなります。

よって、本件登記は、本件信託の清算受託者である乙から、本件信託受益者乙に対する所有権移転登記であることから、要件①を満たすと解するのが相当です。

要件2は、本件特例の対象となる信託として、委託者のみが信託財産の元本の受益者となる信託であることをその要件としているところ、本件信託においては、甲が死亡するまでは、委託者が受益者であり、また委託者の死亡後は、委託者から委託者の地位を取得した乙のみが残余財産帰属権利者(受益者)であることから、同要件についても満たしていると解するのが相当です。
そして、乙は、本件信託契約の効力が生じた時における委託者である甲の相続人であることから、要件3についても満たすこととなります。
以上のとおり、本件登記については、本件特例の趣旨にも反しておらず、本件特例に係る各要件を全て満たしているものと解されることから、その適用があるものと考えられます。

信託の終了に伴い、受託者兼残余財産帰属権利者が受ける所有権移転登記に係る登録免許税法第7条第2項の適用関係について①

信託財産を終了したことに伴う不動産に係る所有権移転登記について、登録免許税法第7条(信託財産等の課税の特例)第2項の規定が適用され、相続による所有権移転の登記とみなして登録免許税が課されるとどうかは、次のことに掛ってきます。

 

 

登録免許税法第7条第2項は、

要件① 信託の信託財産を受託者から受益者に移す場合 であって

要件② 当該信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である場合において、

要件③ 当該受益者が当該信託の効力が生じたときにおける委託者の相続人であるとき

 

と規定していることから、その適用にあたっては、各要件を満たす必要があると考えられます。